GDEmBm(草稿2)


※ 本稿は『縦書き文庫』でも読むことができます。


GDEmBm(草稿2)


「やぁ、世の中に必要とされていない諸君」

冒頭はそれで始まる。

続けてこう書かれている。

「やぁ、世の中に必要とされていると主張する諸君」

刺激的な書き出しに、じわりと手に汗をかいた。

「ぜひとも聞いていただきたいのだが」

「君はまだ、生きているとは言い難い。
この本を手に取った君、君のことだ」

「尤も、人は命を尊ぶものであるから、決してそのことを君には言わないがね」


とんでもない本を買ってしまったものだ。

先日、家の近くの古本屋で格安ワゴンセールがあった。

金無しの私はここぞとばかり、適当にみつくろって数冊まとめ買いをした。

これはその中の一冊であった。

ハズレくじをひいたと思った。

“生きているとは言い難い”?

お説法なぞ、求めちゃいない。

私はすぐに本を閉じ、趣味のギターに手を伸ばした。

流行の曲をコピーすることが、近頃の娯楽であった。

GDEmBm・・・GDEmBm・・・GDEmBm・・・

ふいに私は、先ほど目にした言葉が気になり始めた。

“やぁ、世の中に必要とされていない諸君”

“君はまだ、生きているとは言い難い”

足元から一匹の蟻が這い上がってくるような居心地の悪さを私は感じた。

なにを言ってやがる。そんなはずがないだろう?

苛立ちを感じつつも、なぜか気になって仕様がなかった。


不安定な気持ちに決着をつけるべく、私は本を再び手にとった。

「どうやらお怒りのようだね」

「まぁそれも仕方あるまい」

「君よ、君はこれまで本当に人を愛したことがあるか?」

「君は『愛』というものを一体なんだと思っている?」

「たとえば君が今いなくなって、誰が悲しむであろう。悲しんでくれる人はいるかね?」

「いや、本当の問題はそこではなかったね。
愚かなる君には次のような質問こそふさわしい」

「たとえば誰かがいなくなって、君は悲しむことがあるか」

「そのような存在が君にいるか、ということが問題なのだ」

ふと、私は自分の足元を見た。

気づけば、足を這う蟻は三匹に増えていた。

最初の一匹は下腹部あたりにまで登りつめていた。

「君はまだ『愛』を知らないのだよ。
君は『愛』を知っていると思っていたようだがね」

「君はこれまで存分に生きてきた。年齢とはまさに、それを意味しているわけだ」

「そして君は、これまで生きてきたという事実の中に、
『生きる価値があったからだ』と思っている」

「しかしそれは大きな誤ちだ」

「『愛』も『人生』も、産まれた時から備わっているものではない」

「『愛』や『人生』、それは想像するものであり、
創造できる者にしか『愛』や『人生』は存在し得ない」

「君はまだ何も知らない。君はまだ何も創造していないだろう?」

「もう一度言うが、君はまだ何も知らない。
生きているとはまだまだ言い難い」

「背けずに、考えよ。背かずに、生きてみよ。
君が思うことを、君が欲することを」

「君はまだ何も知らない。
君はまだ何ひとつ満たされていない。
君はまだ、生きているとは言い難い」

動悸が激しく胸を打った。

異常に湿度の高い、蒸し暑さが部屋に満ちていた。

鼻先にぽつぽつと汗の玉が浮き、頭皮が湿っていくのがわかった。

暑い。

朦朧とし始めた意識を確かにすべく、再び私はギターを手に取った。

壊れた機械のように、私は何度も弾き慣れたコードを弾いた。

GDEmBm・・・GDEmBm・・・GDEmBm・・・

叩くようにして弾くストロークに、1弦と3弦が切れた。

つまんでいたギターピックがはじけるように宙を飛んだ。

GDEmBm・・・GDEmBm・・・GDEmBm・・・

全身から溢れ出る汗は髪先にまで滴り、白いシャツが首筋にぴたりとはりついた。

GD×Bm・・・ G×Em△・・・ G××△・・・

暑い、アツイ……。

傍にあったタオルで額をぬぐったが、またすぐに汗が溢れた。

無数の蟻が、顔中を這っていた。

ざわざわと股間のあたりに密集する蟻を見て、私は白目になり、後へと倒れた。

遠くなる意識の中、声が聞こえた。

“君はまだ、生きているとは言い難い”


(草稿2)


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