『5年後、メディアは稼げるか』:書評というか、感想とまとめ。

5年後、メディアは稼げるか

5年後、メディアは稼げるか――Monetize or Die?(佐々木紀彦)をKindle書籍で読みました。

“メディア”にある程度の関心がないと、楽しめない内容かなぁ、と思いました。その分野における、専門的知識のない私は、読了に4日かかってしまった。

メディア業にたずさわっている人、あるいはたずさわろうと考えている人には、一読の価値があると思います。今後の動向、そして、生き残るための“マネタイズ”に焦点があてられています。



<内容紹介>
今、日本と世界のメディア界は、大きな岐路を迎えている。今後5年、メディア業界は100年に一度といってもいい激震を経験するはずだ。では、ウェブのさらなる進化などによって、メディアの形はどう変わっていくのか。ネットメディアを運営するプレーヤーの目と、業界を分析するジャーナリストの目から、「メディア新世界」の姿を予測する。



『5年後、メディアは稼げるか』:読書メモ



個人的に印象に残った箇所を、コンパクトにまとめてみたいと思います。


「個」に焦点があてられる


  • ウェブの世界は、多様で競争相手がうじゃうじゃいます。謙虚に振る舞っていては、存在を忘れられてしまいます。そのため、時には大げさと揶揄されてでも自分を強く売り出す必要がある
  • デジタルの世界では、媒体まるごと読むという習慣が薄れ、読者は各媒体をつまみ食いしながら、ニュースを消化するようになります。そこで、ニュースを選ぶ基準となるのは、「どの媒体か」よりも「誰が書いたか」「どんなテーマか」です。
  • 個々のジャーナリストは、会社名を抜きにした〝裸の力〟が試されます。作家やアーティストに近い存在になるのです。媒体はあくまでプラットフォームであり、主役は著者です。
  • ウェブメディアにおいてもっとも大事なのは、文章力よりも、経験や知見の面白さです。

“東洋経済オンライン”について


  • 他社をマネするのではなく、自分たちと年代の近い読者をターゲットにしたほうがいい、そのほうが読者の心に突き刺さる面白いコンテンツを創れるだろうと考えた
  • 「ユーザー第一主義を徹底」したこと
    ――「ユーザーの満足度を最優先する」ということ、「短期的な利益よりもユーザー数やページビューの増加を重視する」ということ。とにかく、「読者からどう見えるか」「読者の心を どうつかむか」に焦点を当てました。
  • そのひとつの現れが、スマホへの最適化です。
  • ユーザー層拡大のために行なったのが徹底的なオープン化
    ――すべての記事を、煩わしい無料会員登録なしでもタダで読めるようにするとともに、記事を配信するポータルサイトの数と配信本数を劇的に増やしました。

“ウェブ記事”について


  • ウェブの記事は、つかみがまずいと、それ以上読んでもらえません。紙は多少退屈しても、すぐにほかの雑誌に移ることはできませんけれども、ウェブならクリックひとつで、ほかの記事に飛べます。その点は、リモコンひとつでチャンネルを変えられるテレビと似ています。
  • ウェブでは、「……と思います」「……ではないでしょうか」といった、ゆるい言い方はしっくりきません。多少、物事を単純化するリスクを冒してでも「……だ」と断言したほうが読者の心に響く
  • ウェブでは、重箱の隅をつつく細かい人に批判されてでも、思うところを率直に述べたほうがいい
  • 空気を読んで建前ばかりをいう人は、ウェブ空間では見向きもされません。 
  • これからのジャーナリズムで求められる倫理基準とは、「客観性」ではなく「透明性」――筆者のバックグラウンド、経歴、そして、政治的なスタンスまで披露した上で、その人間が「私はこう思う」と述べるのは一向に構いませんし、議論を活性化させるはずです。客観を装いつつ自分の思想を紛れ込ませた記事より、自分の立場を明確にして意見を堂々と述べた記事のほうが、読むほうもすっきりします。

“マネタイズ”の成功について


  • 経営におけるファイティングスピリッツの差は、確実にコンテンツの差として表れています。経営力に乏しいメーカーから、いい商品が出てこないのと同じように、経営力に乏しいメディアから、いいコンテンツが出てくるわけがありません。
  • 広告頼みでは成長性に限界がありますし、収入も安定しません。広告に続く収益源を見いだせるか、もしくは、広告を爆発的に増やすイノベーションを起こせるかが課題になります。
  • まず成長を重視して、ユーザーベースが固まってからマネタイズする。ユーザーやPVよりも収益を優先して、その後マスに成長した例はあまり聞きません。
  • マネタイズ例
    ①広告 ②有料課金 ③イベント ④ゲーム
    ⑤物販 ⑥データ販売 ⑦教育 ⑧マーケティング支援 
  • 「データ志向の徹底」
    ――クッキーでは拾えないより深い読者データを丁寧に拾っていかなければなりません
    。 そのための王道は、読者を会員登録へと誘い、基本的な属性情報を入力してもらうことです。ここで大事なのは、読者に〝気持ちよく〟会員になってもらうこと。最悪なのは、記事の途中で「次のページを読むには、会員登録が必要です」というメッセージを出し、細かい個人情報を入力させるパターン。こうしたやり方よりむしろ、「会員登録をすれば、なにか付加的なサービスが受けられる」という、前向きな形で会員登録をお願いしたほうがいい。
  • 商品を直接アピールせずに自社のブランドと認知度を高め、長い目で売上げにつなげる。これがブランドコンテンツの狙い。
  • 健全なジャーナリズムを守るためには、やはり広告以外の収入源が必要になります。その本命となるのが、有料課金です。
  • 無料サイトとしての圧倒的な実績――まずもって幅広い読者層を獲得しないことには、課金のベースとなるパイ自体が存在しないことになります。その意味で最悪なのは、立ち上げと同時に課金をしてしまうサイトです。中身を試し読みもしないままに有料会員になってくれる読者はそうそういません。 
  • 特に重要な指標は、頻繁にサイトを訪れる「中毒性の高い」読者の数。忠誠心の違い、リピーターの比率の違いが、有料化における両者の明暗につながっている。
  • 有料化のカギとなるのが、コンテンツにプラスαで提供するサービスや機能
    ――考えうるオプションを総動員し、コンテンツと組み合わせて有料会員を募る。そこに有料会員を増やすヒントがある。 

ウェブメディアで働くこと


  • 「朝に気づいた改善点が夕方には直っている」というぐらいのスピード感が求められる。
  • まずはユーザーの増加に全力投球し、マネタイズを二の次にするのが王道
    ――焦って金儲けに走るネットサービスは、ユーザーにそっぽを向かれてしまいます。そもそも、メディアにとって、利益は最終目標ではなく、あくまでよいコンテンツを創るための手段です。「10億円の利益があって10万人にしか読まれないメディア」よりも「1億円の利益でも100万人に読まれるメディア」のほうがいい。
  • スーパーゼネラリストを目指すなら、どの分野でも最低限のレベルの記事を書ける〝万能性〟とともに、最低3つの得意分野がないと厳しい
    ――競争の激しいデジタルの世界では、3つぐらいの得意分野を組み合わせないと自分のオリジナリティを出せませんし、キャリア上のリスクヘッジができない。異分野を融合し、オリジナルな分析、ストーリーを描けるようになれれば、瞬く間に売れっ子になれる。
  • トレンドを追う仕事をしている人ほど、時代と文化を貫く普遍的なものを摂取しなければならない
  • これからのメディアビジネスにおいて、読者から得られるデータが競争力の源泉になります。よって、膨大なデータを分析して、読者・会員獲得や広告ターゲティングに活かせる人材の価値は急騰する。
  • 早ければ20代の中盤から後半、遅くとも30代前半までには、ウェブへ舞台を移すのが得策です。紙からウェブへの劇的な転換をうまくこなすには、平均的にいって30代が限界だと思います。  

独立したジャーナリズム


  • 広告ビジネスの黎明期であった当時、時事新報のやり方は「拝金宗」と揶揄されましたが、福沢がひるむことはありませんでした。彼は経済的な独立こそが、ジャーナリズムの独立のために、何より重要だと信じていたからです。
  • 今の日本メディア界に求められているのは、まさに福沢のような「起業家ジャーナリスト」です。業界の常識にとらわれず、新しいチャレンジをしていく。健全なジャーナリズムを守るために、新しい稼ぎ方を必死に考える。そんな人材がどれだけ生まれるかで、日本のメディアの未来は決まります。



読後の感想・書評――メディアの独立、個の独立のために



印象に残った文は多々あるのですが、膨大な量になるので一部にとどめておきました。興味ある方は、全文に目を通すことをおすすめします。

さて、本書ですが、まず、海外事例の列挙が目立ちます。海外メディアの近況などなど――自分は“メディア”に強い関心があるわけではないので、そのあたりはちょっと飛ばし気味に読んでしまった…。が、先進的な考えをもつプロの人は海外にもしっかり目を向けている、ということを再確認いたしました。

・経営におけるファイティングスピリッツの差は、確実にコンテンツの差として表れています。経営力に乏しいメーカーから、いい商品が出てこないのと同じように、経営力に乏しいメディアから、いいコンテンツが出てくるわけがありません。

・経済的な独立こそが、ジャーナリズムの独立のために、何より重要

これには至極、同意しました。

「ものを書くこと」と「マネタイズ」を融合させることなぞ、無粋であるかもしれません。過度のマネタイズは、ジャーナリズムの中立性を揺るがすことだってある。

が、独立してお金を稼げないと、良コンテンツの発信と維持ができない。純粋な物書きにとって、関係のない、避けてしまいたいところですが、その課題ときちんと向き合えるか、“向き合える人材”であるか。

広告、有料課金、フリーミアム、ユーザビリティ、読者データの丁寧な分析、ウェブへの適合…などなど、本書に記述がありますが、「記事を書くだけ」ではなく、そういった方面にまで視野が及ぶ人が今後重宝されていく、飛躍していくのではないかと思います。

ジャーナリズムで求められる倫理基準とは、「客観性」ではなく「透明性」

これは本当に、そう思います。というより、そういう時代の到来を私は願います。

今後、ウェブにおいては、「組織」や「媒体」ではなく、「個人」に焦点があてられる。クラウドソーシング的な働き方によって広がる労働市場というのが、あると思う。「個」の力を活かしやすい時代がくれば、もっと働き方が広がる。救われる者だっているだろう。

しかし、それはどこか“机上の空論”みたく、あまりに理想的であって、そうそう簡単に実現、到来するものではないと思う。「組織」は信頼を得やすい。対して、「個」は、個の力で信頼を得るというのは、簡単なことではない。

では、「個」はどうあるべきか。「透明化」「透明性」に、ひとつのヒントがあって。顔、名前、年齢、素性、収入、性格…あらゆるパーソナルデータをオープンにしていくことで信頼を得る――そんな時代がくる、というか、きてほしいと私は思っている。

本書は“万人向け”というわけではありませんが、普段、ぼーっとウェブニュースを眺めることが多い私にとって、「水面下で色々と試行錯誤されているのだな」と、業界の実情を垣間見れる貴重な一冊でした。

以上、@ryotaismでした。