横光利一『蠅』:死の不条理性・平等性・突然性について
桜の頃ですが、今日は妙に寒かったね。そうだよね?
さて、先日、横光利一『蠅』を読んだのですが、
これがまぁ、傑作なんですよね、傑作。
読んだ? 読んでない? 短いし読んでみようか、うん。ハイッ!
動画でもチョット喋ったんですけど、
これね、【死】がもつ複数の顔を描いているんですよ。
……てか、読んだ? え? まだ読んでないの?
しゃあねぇな、青空文庫で無料で読めるよ!
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横光利一『蠅』のスゴさ
……さて、【死】ってどういうものか?
んなもん、一言で説明できるはずがない。
でもさ、死の特徴みたいなものは、なんとなくみんな知ってるんだよ。
でも、めったなことがない限り、死について人間は考えないから、漠然としたイメージしかない。
あ、誤解しないでほしいのは、「死後」ではないよ、「死」というイベントことだよ。
死、「死ぬ」ということ、「死が起こる、死が発生する」ということ。
それはどういうものか?
死というイベントはどういうものか?
その特徴は複数あって、「死は○○である」とは言い切れない。
「死は○○であるし、○○でもあるし、○○でもある」。
死がもつ、それら複数の顔を、この短い作品の中で、うまく描いているから、この作品はスゴイんですよ。長文じゃなくて短編、というところ。
で、この作品では以下三点が書かれている。
- 死の「不条理性」
- 死の「平等性」
- 死の「突然性」
死の「不条理性」
作品を読んでもらったらわかる。(短編だからすぐ読めるよ)
【死】ってのは、生きている人間の"事情"なんて、知ったこっちゃないんですよ。
残酷なんです。非情なんです。
どれだけ強く生きたいと願っても、そんなことは知ったこっちゃない。
「生き残るべき聖者が死んで、罰せられるべき罪人が死なない」、といったこともある。
人間界の言葉でいえば、“理不尽”なんですよ。
『生き残るべき人が生き続ける、生きたいと思う人が生きられる』、という"予定調和"じゃないんですよ。
「生き残るべき人が死ぬ、生きたいと思う人が死んでしまう」、そういう【不条理】なものなんですね。
我々、人間個人の事情なんて、【死】は聞き入れてくれないんです。
死の「平等性」
先の、不条理性にも関連するんだけど、まぁ、平等なんですね。
「【死】は万人に、平等におとずれる」ということ。
人を選ばないんですよ。
善人にも悪人にも、平等におとずれる。
精一杯生きようが、だらだら生きようが、死は平等におとずれる。
「いや、ちょっと待って!」
ん? どした?
「日々、健康に気を使っていれば、寿命はのびる。不摂生な生活を送っていれば、早死するじゃないか。“平等”ではないんじゃあないの!?」
お、、、するどいな。キミ、なかなかのツッコミをするね。
でもね、ここでいう“平等”というのは、『死の本質』としての“平等”のことをいっているんだ。
『本質』というのは、「それがなんであるか?」ということ。
キミのいうように、生活の仕方、生きているときの行いによって、死のおとずれはいくらか調整できるかもしれない。
でもそれは、「死の特徴の話」ではない。
「死とはどういったものであるか?」ということを考えなくちゃいけない。
まったく同じ生活を送って、まったく同じ環境で過ごした、まったく同じ人間が二人いたとする。
その二人の前に、死はどんなふうにしておとずれるか?
「平等におとずれる」、という話。
かたよらない、かたよりがない。
そもそも死は平等。
「【死】は万人に平等におとずれる」というところから先ず始まるのであって、そして、それは、死そのものがもつ『本質』だ。
生活の仕方によって、死の訪れはいくらか不平等になるかもしれないが、それは後(あと)の話。人間側の話でしかない。
死の「突然性」
いくら健康に気をつかっていようが、突然、死んでしまうことがある。事故や災害がまさにそうだろう。
どれだけ努力しても、どれだけ避けようとしても、避けられないことがある。
【死】は、予期できない。いきなりやってくる。
ひょっとしたら明日死ぬかもしれない。
その可能性は低くても、その可能性は決してゼロではない。
ふいに、突然、【死】はやってくる。
ともすれば、死を感じる瞬間すら無く、死んでしまうことだってある。
***
横光利一の『蠅』という作品には、ここまで述べた、死の「不条理性」「平等性」「突然性」が見事にまとまって描かれている。まったく、納得の傑作だ。
え? まだ読んでない?
じゃあ暇なときにでも読んでみてよ。
こんな、クソみたいなブログよりも価値あるよ。
じゃあまた。@ryotaismでした。
- 【蠅】横光利一 Part1 @読書実況 - YouTube
- 【蠅】横光利一 Part2 @読書実況 - YouTube
- 明日死ぬかもしれない可能性はどれくらいか?
- 寝ているときは死んでいるのでしょうか?