中田永一『百瀬、こっちを向いて。』を読みました。

甘酸っぱい恋愛小説でした。

(これまで“恋愛小説”とよばれるものをあまり読んだことがなく、しっかり読んだものといえば、伊藤左千夫『野菊の墓』くらい…。)



『百瀬、こっちを向いて。』



凄い! このありふれた世界からいくらでも新鮮な物語を掘り出すね。(映画監督・岩井俊二)

どれも若い世代の淡い恋愛感情の芽生えを描き、繊細ながらも ユーモラスで、叙情的でありながらコミカル。ぎゅっと抱きしめたくなるような、愛おしい作品ばかりだ。(ライター・瀧井朝世)

「こんなに苦しい気持ちは、最初から知らなければよかった……!」 
恋愛の持つ切なさすべてが込められた、みずみずしい恋愛小説集。


収録作
『百瀬、こっちを向いて』
『なみうちぎわ』
『キャベツ畑に彼の声』
『小梅が通る』



感想、思ったこと


さて、『百瀬、こっちを向いて。』についてであるが、4作品が収録されており、それぞれが微妙につながっていて大変おもしろかった。

ひとつひとつ順番に読んでいくことを個人的にはおすすめする。

とりわけ、表題作である『百瀬、こっちを向いて。』がよかった。この一作だけでも充分楽しめた。

作品全体を通して思ったことは(私だけではないだろうが)、

通常、"漢字"で表記するところを、あえて"ひらがな"で書いてあるところが何箇所もあって、「漢字とひらがな」の使い分けに気を配っているのがうかがえた。

“ふるえた”
とか、“すこし”とか、文中、数えればきりがない。

ゆえに、若い人でも(小学生でも)、読みやすいのは当然であるが、

おそらく『読みやすさ』を目的にして、ひらがな表記にしているわけではない。

文章の『やわらかさ』というか、『あたたかさ』を表現するために、ひらがなを用いたのだろうと思う。又、『おさなさ』や『わかさ』といったものも場合よっては表れている。

このあたりの、文章の視覚的効果やリズムについては、谷崎潤一郎『文章読本』が詳しい。



読んでいて思ったのが、そういった文章技術はもちろんなのだろうけど、切なさとか愛おしさとか、そういうのを表現するのは、技術云々ではなく、【感受性】なんだろうなと。テクニックの学習だけではかなわない。

【日々の過ごし方】――ふだん何を考えているか、目の前の景色がどのように映るか、そういう次元の話。テクニックだけではどうしようもない。


なにか、感想や評論じみたことをすればするほど、作品が薄汚れていくような抵抗があるので、このへんにしておきます(^_^;)

『百瀬、こっちを向いて。』、大変おもしろかったので、おすすめです。私のような、恋愛小説を普段あまり読まない人でも、存分に楽しめる作品であると思いました。

以上、@ryotaismでした。