『死者のための音楽』

山白朝子『死者のための音楽』を読み終えた。

んー、おもしろい!おもしろかった!

ジャンルとしては、ホラー小説になるんだけど、背筋の凍るような“恐怖”はなかった。どちらかといえば、“切ない”だね。テイストは、昔話風の“怪談”。

Kindle Paperwhiteを所有しているので、Kindle版を購入しようか迷ったのですが、表紙が気に入ったので、単行本で購入しました(´・ω・`)




『死者のための音楽』(山白朝子)


教えたこともない経を唱え、行ったこともない土地を語る息子。古い井戸の底に住む謎の美女。すべてを黄金に変える廃液をたれ流す工場。身元不明の少女に弟子入りされた仏師。山に住む鬼におびえて暮らす人々。父を亡くした少女と、人が頭に思い浮かべた物を持ってくる奇妙な巨鳥。生まれつき耳の悪い母が魅せられた、死の間際に聞こえる美しい音楽。親と子の絆を描いた、懐かしくも幽幻な山白朝子の怪談7篇

収録作
「長い旅のはじまり」
「井戸を下りる」
「黄金工場」
「未完の像」
「鬼物語」
「鳥とファフロッキーズ現象について」
「死者のための音楽」




感想:「気づけば“別世界”に連れて行かれている」


まずね、"一作一作が非常に短い"

なので、例えば、「仕事が忙しい」とかいう人でも、容易に読める。気軽に読める。時間のある学生なら2~3日で読み終えられるだろうと思う。

では、一作一作が短いゆえ淡白かといえば、そんなことはない。


どれも味わい深く、何より、構成・プロットがしっかりしており、「おー、なるほど!そういうことか!」と感心したり、続きが気になる「謎解き要素」もある。

なので、時間がなくても読もう!読もうぜ!

……さて、わけのわからないゴリ押しはさておき。

ホラー要素に関してであるが、これについては過度な期待、というか「偏見」をもって読まないほうがいい。怖さ、恐怖感はない。深読みすると「怖いなコレ…」という部分はあるものの、怖さを全面押ししている作品群ではない。

藤子・F・不二雄は、「SF」を「サイエンス・フィクション」ではなく、「すこし・不思議」という意味で用いた。

感覚としてはこれに近かった。すこし、不思議。

日常の中に、非日常が絶妙にうまくすべりこむ。

最終的には、とんでもない別世界に連れて行かれる。

『あれ?ココどこ??』と、自分でも気づかないうちに、いつの間にか、この世とは"別の世界"に連れて行かれている。

“怖さ”というより、“不思議な感覚”に襲われるというのが、評するに丁度いいんではないかと思う。

さらに、“切ない”んだよね。

つまり、どれも『人と人との物語』なんだと思った。生々しい人の思いや感情が、結局は、すべての発端となり、又、結末となっている。

なお、昔話風の怪談ばかりでなく、『黄金工場』『鳥とファフロッキーズ現象について』『死者のための音楽』などは、現代のお話といって差し支えない。

ちなみに、収録7作のうち、『未完の像』『鬼物語』がボクは好きでした。『鬼物語』の構成というか、順序立てというか、思わず唸ってしまった。サラッと簡単に、このようなプロットを組めているのだとしたら、「どんだけの才だよ!」と思う…。

どれもすぐに読み終えられる作品なので、時間のない方もぜひ。おすすめです。@ryotaism