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ITジャーナリスト・佐々木俊尚さんの『自分でつくるセーフティネット~生存戦略としてのIT入門~』をKindleで読みました。


<内容紹介>
国 と会社が守ってくれる時代は、もう終わり。 「ビジネス強者」になれない私たちが生き残るには……。 リストラされても、お金がなくても、会社がなくなっても ゆる~いつながりがあれば、誰かが助けてくれる! もはや、お金や会社の名前、肩書きだけでは、セーフティネットにはならない。 これからは「善い人」が信頼されるネット人格の時代です。 SNSでゆる~くつながる「最強の生存戦略」とは?


『自分でつくるセーフティネット~生存戦略としてのIT入門~』を読んで



“セーフティネット”――つまり、“困ったときに助けてくれるのは何か?”。

守ってくれる“箱”、例えば会社などが崩壊しつつある現代において、「弱いつながり」や「情の世界」がセーフティネットとなる、という話。

『弱いつながり』というのは、ネットで出会った人とか、何かのパーティーで名刺交換をしただけの人とか、勉強会などでときどき顔を合わせる人、いまは年賀状交換してるだけの高校の同級生。ゆるやかな人間関係のこと。Facebook上でのつながりがもっとも代表的でわかりやすい

こういった『弱いつながり』が、これからの生存戦略・セーフティネットとなるだろう。“助けてくれるだろう”、ということ。

……さて、この時点で、「は?なにを理想論を言ってんだ」という人は、きっとこの本を読んでも、なんのためにもならない。

たしかに、ボク自身、「理想的すぎやしないか?」と思う箇所もあった。特に、「Facebookって、そんなに!?え!?そんなに最強ツールなの!?俺、ぜんぜんやってないんだけど!」と思った…。Facebook全盛期の頃、数年前の本なのかな?と一瞬思ったが、[2014年7月出版]なので、けっこう最近だし…。

“Facebookはおじさんのものとなった”、という言説もあるし、ちょっと前に、『学問ノススメ』で、古市さんもおっしゃってましたが(古市憲寿さん(社会学者)|ラジオ版 学問ノススメ)、「SNSとか騒ぎ過ぎでしょ、そんなに万能じゃないっしょ」と、ボクもそう思うんですね。だからこそ、この本の内容に対しては懐疑的にならざるをえなかった。

が、おもしろい。おもしろいんですよこの本。なんでかって、「理想」を語っているからですよ。

特に終盤では、「『善い人』になりましょう。それが生存戦略となる」といったことが書かれていて、つまりは、「『善い人』だと助けてもらえる」という、理想的な『情』の世界が描かれている。

FacebookやITは、そんな世界を実現させるんじゃないか、と。

が、ネットに関していえば、そもそも『お金』がいるんです。お金がなかったら、パソコンも月々のスマホ代も払えない
。さらに、ネットを使うには、そこそこのリテラシーや知識も必要で。

余談ですが、土木警備員として働いていたとき、まわりは就職のできない借金持ちのおじさんだらけで、スマホやパソコンもってる人なんてほとんどいなかった。格安SIMどころじゃない、みんなガラケーで、休みの日はパチンコか競馬――。

Facebookは登録無料だけど、利用するにはネット環境が必要なんであって、つまりは有料です。あと、知識も必要です。ネットに月々5千円も払う余裕がない、あるいは、まったくパソコンやネットを使ったことがない人にとっては、登録することでさえ難しいシロモノです。

そういう人たちに、本書のセーフティネット(生存戦略としてのIT)を述べても、「んなこと言ってる暇あったら、さっさと汗流して働けバカ」と一蹴されて終わりです。ヘルメットかぶって、スコップをにぎれって話です。

でもね、いいんですよ。現実はそうかもしれないけど、理想は語ってなんぼだと思うんですよ。


おそらく、この本には、「弱いつながり、網の目でつながる『情』の世界――それを実現させるインターネットであってほしい」という著者の願望もあるんだと思う。(ちなみに本書の最後は、“わたしはそう信じています”という文で締めくくられている)

本書で述べられているセーフティネットが、現実的な案であるか、あるいは、現実化するものなのか、そんなの誰にもわかりっこない。

が、もし月々5千円程度のネット料金で“セーフティネット”を築けるならば、それは大変安いことであるし、ITだけに限らず、何かあったときに助けてくれるかもしれない「弱いつながり」を大切にするにこしたことはない。

そして、『善い人』でなければ、「弱いつながり」はセーフティネットとして機能しない。なんの意味も効果もない「0のつながり」で終わってしまう。

ボクはね、この本を読んだとき、「理想論だろ…」と思いつつも、一方で、「こうあればいいなぁ」と、期待している自分がいることに気づいた。

なんでもかんでも疑った見方をして、批判的態度で、ダメな部分をつついてばかりでは堂々巡りじゃないか。ダメ出しじゃなくて、ポジ出しの発想でいこう、と。(参照:社会をアップデートするために僕らができること / 荻上チキ氏インタビュー | SYNODOS -シノドス-

物事には「良い面」「悪い面」の両面が存在する。「悪い面」ばかりをみていると、それが現実となることがあって、語るならば「良い面」を、愚かでも「理想」を。インターネットに関して、ボクは良い面の可能性を語りたいし、そして多くの人がそれを期待していたからこそ、ここまでインターネットは成長してきたんじゃないか――と思う。

最後に。

印象に残った箇所、一部のせておきます。


読書メモ――『自分でつくるセーフティネット』(佐々木俊尚)


以下、『自分でつくるセーフティネット~生存戦略としてのIT入門~』(佐々木俊尚)より引用。

  • いまのブラック企業も社員を束縛してますが、昭和のころの会社が違ってたのは束縛だけじゃなくて、そこに安心や保護もくっつけてたこと。だから「安心だけど息苦しい」「逃げ出したいけど、でも会社にいたほうが安泰」というジレンマの中で、当時の人々は会社と向き合ってた。愛してるけど憎んでるぜ、という気持ちだったんです。
  • 保守的な若者がいまたくさん出てきているとすれば、それはわたしたちの社会そのものが保守的になってるということ

  • 【Facebook】
    1. 第一は、人間関係を気軽に維持していくための道具。
    2. 第二は、自分という人間の信頼を保証してくれる道具。
  • 自分の人間性をさらけ出すと、自分は信頼を得られる。実はインターネットって、こういう「交換」が得意なシステムなんですよね。 
  • 失われてきている「世間」や「箱」のようなヒューマン・システムの代替物として、フェイスブックの意味があるということなんですよ。
  • 箱の中では先輩や偉い人が勝手に教えてくれていたのが、総透明社会では教えてもらうためには交換条件が必要になってきているということです。 誰も見てくれない黙殺社会の不安があるから、逆に自分がいまここにいることをネットの中でアピールして、「ぼくを見て」「わたしはここにいるよ!」って叫んでる。それが実のところ、いまのネット社会の本質なんじゃないかとわたしは思っています。 
  • 自分たちの情報を提供することで、社会につながってる安心感をどこかで得られている。だからこれは「監視社会」じゃなくて、「監視されたい社会」なんじゃないでしょうかね。やっぱりみんな、心の底で見られることを望んでいるんですよ 

  • プライバシー、プライバシーってみなさん言うけれども、そんなのこの半世紀ぐらいのあいだにようやく認知されただけの権利じゃん、とわたしは思うのです。
  • ネットはプライバシーを奪うけれども、同時に情報ももたらしてくれる。ものごとには常に表と裏、いい面と悪い面があるという典型的なかたちですね。 

    • グラノベッター先生は何を発見したかというと、たとえば誰かが転職しようとか独立しようとか思った時に、そういうのに役に立つ情報ってどっから流れてるの? というのを調べたんですね。その結論は、単純明快。つまり、新しい仕事についての情報は、弱いつながりを伝って流れてくるほうが多い。強いつながりからは、あまりそういう情報は流れてこない。
    • きずなでつながった仲間だけじゃなく、弱いつながりもたくさん持っていたほうがいい。それがこれからの生存戦略 

      • 「善い人」であることが、最強の生存戦略
        総透明社会では、自分の善い面も悪い面も、両方あからさまに丸見えになっちゃう。そして善い面を出してる人同士は善い集まりをつくっていくし、悪い面を出してる人は悪い集まりに落ち込んでいく。だったら、善い面をちゃんと出して生きていきましょう、それによって見知らぬ人と信頼しあえるし、将来に役立つ弱いつながりもつくれますよ
      • 狭くて強いつながりよりも、広くて弱いつながりを保つほうが生存戦略として有効になってきている中では、「会社のために黙々と仕事をする」よりも、「広い社会のために善いことをする」というほうが正しい生存戦略である、ということです。
      • 「情けは人のためならず」は、まさにいまのインターネット時代だからこそ言えること。いろんなつながりを持っていて、他人に情報を与えてあげるってことが、まわりまわって自分のためにもなる。そういう時代になってるんです。

      以上、@ryotaismでした。