遠い宇宙の奥の奥――。

神様がいた。

「さぁ、今日は何をつくりましょうか。人をつくりましょうか、猫をつくりましょうか、魚をつくりましょうか」

神様は、しばし考えたあと、「よし、今日は人をつくろう」と言った。

神様の前に、ひとりの人間がポンとあらわれた。

「さて、次はこの人間を、オスにしましょうか、メスにしましょうか」

しばし考えたあと、「よし、今回はオスにしよう」と言った。

目の前の人間は、オスになった。こうして、【一人のオスの人間】ができあがった。

そこに別の神様があらわれた。

「前から思っていたのだが、『つくりかた』の順序は、必ずそうでなくてはいけないのか?」

「それは、いったいどういうことだい?」

「いや、つまりね、キミの『つくりかた』の順序はこうだ。
『人にするか、猫にするか、魚にするか』――それを決めたあと、次に、『オスにするかメスにするか』を決める。」

「うむ、たしかにそうであるが――」

「その順序を変えてみるってのはどうだ?
つまり、『オスにするかメスにするか』、まず性別を決めるのだ。そのあと、その性を、『人にするか、猫にするか、魚にするか』、どれにするか決めるのだ」

「なるほど。そういう考え方もある。どれ、試しにそれでやってみよう」

神様は、まず第一、「オスにするか、メスにするか」を考えた。

「よし、オスにしよう」

神様の目の前に、人なのか、猫なのか、魚なのか、いったい何かはわからないけれど、「オス」の影があらわれた。

「さて、続いて、これを人にするか、猫にするか、魚にするか――よし、人にしよう」

すると、「オス」の影は、人間の形に変わった。こうして【一人のオスの人間】ができあがった。

別の神様は言った。

「『つくりかた』の順序はちがうけれど、キミが最初につくったオスの人間と、まったく同じだろう?」

「うむそうだ、どちらの順序でも、最終的には同じにみえる。しかしどうだろう? どこか腑に落ちないぞ」

「なら、いましがたキミがつくった、性別を先に決めたオスの人間を、地球におとして、観察してみようじゃないか」

「うむ、そうしよう。『つくりかた』の順序がちがうと、どう変わるか、ちょっと観察してみよう」

ここは地球。

神様がつくった、例のオスの人間。みなと何ら変わらない、同じ人間。

観察中の神様、「やはり、『つくりかた』の順序を変えても、何も変わらないか」

例のオスの人間、何やら真剣に悩んでいるご様子。「人間はなぜ生きるのだろう…」。よくみると、彼の手には、首吊り縄が握りしめられている。

「やれやれ」と神様。これまでの人間と同様、何度もみてきた光景である。

別の神様もそれを同じように観察していた。すると何やら気づいたことがあるのか、オスの人間にそっと囁いた。

「やい、お前」

オスの人間は驚く。「だれだ?」

「神、万物を創造するもの――。お前はいったい何に悩んでいるのだ?」

オスの人間はそれが幻聴であると思った。しかし、それがあまりにもはっきりと聞こえるので、答えるよりほかなかった。

「……私は、『人間はなぜ生きるのだろう』と悩んでいるのです」

「そうか、自分の根源を探っているのだな。どうだ、その答えは出そうか?」

「いえ、一向に……」

「そうであろう。それに答えられた人間を私はみたことがない」

「……」オスの人間はただただ沈黙していた。

すると神様、これまでよりもトーンをおとして、低い声で彼に語りかけた。

「ひとつ、教えてあげよう――。キミは、人間に生まれる前に『オス』だったのだ。まずはオスとして誕生し、そのあとに人間となった。キミが、自分の根源を追求するなら、人間よりも一つ前、『オス』について考えるのが妥当である」

「……といいますと?」

「『人間はなぜ生きるのだろう』ではなく、『男はなぜ生きるのだろう』に言い換えてみよ――キミが根源を追求するならば、そのほうが順序としては正しい」

オスの人間は黙った。

たて続けに神様は言った。

「『人間はなぜ生きるのだろう』という問いに対し、その答えは出るのだろうか?難しいであろう。では、『男はなぜ生きるのだろう』という問いならばどうだ??」

「神様、それはつまり…『人間の生き方』ではなく『男の生き方』を考えよ、ということでしょうか?」

「ふむ……それならば答えは出そうか?」

「……、……、………」

◆ ◆ ◆

オスの人間が、その後、どのように生きたのか。そのまま首を吊って死んだのか、それとも考えをあらためたのか。。。

今回の観察で、神様はひとつの発見を得た。

「『つくりかた』の順序によって、つくられた者が異なることはない。しかし、『つくりかた』の順序によって、つくられた者の考え方は変わる」

それ以降、神様はいったいどちらの順序で人間をつくっているか――どちらの順序のほうが正しい感じたのか――。

遠い宇宙の奥の奥である。わかるはずもない。@ryotaism