漫画『ソラニン』がとても面白かった。
世間に疎いもので、その存在に気付くのはだいぶ遅かったのですが――。
浅野いにお、と云う漫画家。
いや、『ソラニン』という作品の名前ぐらいは知っていましたよ。映画にもなったし。でも別段興味なかったので、ずっとスルーしてた。(アジアンカンフージェネレーションの『マジックディスク』ってアルバムは持っていた、ゆゑに映画の主題歌は知ってた)
ひょんなことから、昨年、浅野いにおの『おやすみプンプン』という漫画を知った。読んでみたところ、これがムチャクチャ面白かった。例えば古谷実の『シガテラ』とか好きな人は、絶対に好きなんじゃないか(奇しくも、[シガテラ=魚の毒]、[ソラニン=じゃがいもの毒]と似ている)。日常と非日常の境界の“曖昧さ”、その“危うさ”、「何気ない日常」なんて在りもしねぇ造語じゃないか――と云う雰囲気。
で、もう、とにかくハマってしまいまして――。
氏の作品、『虹ヶ原ホログラフ』、『世界の終わりと夜明け前』と、続けて購入。絵がいいんですよね、絵が。浦沢直樹さんが出てる『漫勉』と云うNHK番組に、浅野いにおさんが出演していて。撮ってきた写真をパソコンを使って巧みに絵の背景にしていく作業、「成程、妙な現実感はここからきているのか」と。今までにない表現方法を模索し、実行しておられる(多少、芸大生的な“いかにもな”クリエイティブ臭が漂っているのですが、実績があるので有無を言わせない)。
また、主人公が女の子であることが多いんですけども、そばかすがあったり、煙草吸ってたり、恋愛上手ではなかったりして、どこか、決してカンペキではない(カンペキな女性なんてそもそもいないだろうし)。女性のもつ「タフな感じ」と「脆い感じ」、そのバランス、特に「脆い感じ」の表現が巧妙で、なんとも危うくて魅力的な女性を描く。女性読者は親近感があるだろうし、かたや男性読者は好感を抱くだろうし、ユニセックス仕様でそりゃ人気もでる。(『モテキ』にもそういうのを感じた)
あと、『漫勉』のなかで浦沢さんも仰ってましたが、“髪の毛”の描き方が実に繊細で、美しい。僕なんかは男ですし、髪質なんざまるで気にしないのですが、女性の髪にかける思いというか、入念なケアを見ていると、「女性にとって髪とはきっと何か特別なものなのだろう」と想像する。肌ならまだしも、肌なら多少は男性の“域”でもあるので、理解はできる。が、僕みたいな超絶に美意識の低い男にとっては、髪の美は、紛うことなき女性の“域”なわけで。そこを男性でありながら、見逃さず、きちっと丁寧に描くことができる中性的な視野がうらやましい、ただただ、うらやましい。
と、こんなこと書いてたら尽きないので、本題。(というか、書きたいことをもうほとんど書いてしまったよ!)
漫画『ソラニン』――感想
昨日、『ソラニン』を読みました。もう10年以上も前の作品だから、「いまさらかよ」というツッコミも覚悟ですが、けど、いまさらだからこそ書きたいと思った。有名作なのになんでスルーしたのか、やや後悔しているわけです。もっと早く読んでおけばよかったなぁと。
『ソラニン』全二巻。どういう話かというと、【社会人2年目のOL女性が、勢いで会社を辞めてしまう】【恋人はバンドマン】という話。そんな二人の物語(プラスα周辺仲間)。※物語の詳細はWikipediaにのっているが、絶対に先に読まないほうがいい。
二十代の頃に幾度も仕事を辞めたことのある僕からみて、「仕事の辞め方がリアル」。いや、ほんとうに、仕事の辞め方って、こんな感じだよな、と思った。夢を追っかけて仕事を辞める人もいれば、ソラニンの女性主人公のように、「このままでいいのか」という疑問に押されて、勢いで会社を辞める人もいる。どっちにしても、そのあとに待っているのは「お金と次の仕事をどうするか」という現実。この現実を描くと描かないとでは、ぜんぜん違う。
登場人物の二人の将来は、「二人の夢は叶うかどうか」という無限の物語ではなく、「二人の生活はどうなるのか」という現実的なところから始まる、有限な物語である。
高校生の恋愛ならば、お金や仕事など、生活のことは後回しにできるけども、社会人となればそうはいかない。仕事、お金、生活――といった現実と向き合わねばならない。
そんなことはわかっている、わかったうえで、それでも彼女は言うんですね、彼氏に。『バンド活動を本気でやってほしい』と。いやいや、生活どうするの?って話ですが、こうしなければ二人の関係は前進しない。やり残した青春があると大人になれない。――で、バンド活動を始めるのだが、案の定、現実、ゲンジツ……。
という話。今回書いたのはほんの一部で、ここからどんどん話は面白くなっていく。
本当は全内容を書いてしまいたいのですが、未読の方に申し訳ないので、やはり是非とも直接読んでいただきたい。全二巻だし。面白かった。@ryotaism
