あの頃、僕らはまだインターネットを知らなかったよね。
人生ではじめてインターネットをしたのは、たしか十九歳のとき。
だから、小中高、僕はインターネットをやったことがない。
今はどうだろう。
スマホやパソコンで、二六時中、インターネットをしている。TwitterやらブログやらネットニュースやらAmazonやら……。
今じゃそんな生活が当たり前になったけど、過去、小中高、僕はインターネットをやったことがない。
あの頃、僕はまだインターネットを知らなかった。
山々に囲まれた、田舎で育った。
僕は高校生にもなって、駄菓子屋でうまい棒を一本だけ買っているような、みるからに童貞でまさに童貞だった。卒業まで第一ボタンは外さなかった。
友達は少なかった。いっしょに遊ぶ友達がいなくて、放課後はたいてい図書館かブックオフを住処としていた。独りでいるときが多かった。寂しいと思うことはあった。でも死にたいと思うことはなかった。
「なんで田舎の夕焼けはあんなにキレイなんだろうなぁ」
今だに下校途中にみた、下り坂の向こうに落ちていく夕陽を覚えている。オレンジ色の空を背景に、赤とんぼが飛び交っていた。だからきっとあれは秋だった。
自分でいうのもなんだけど、無垢で、純朴な田舎の高校生だった。世の中のことをまだ何も知らなかった。働いたこともないし、お金の価値さえよくわかっていなかった。
顔つき、表情、性格、しゃべり方、ぜんぶがぜんぶ、まだ青臭く、幼かった。
そんなときに、突如としてインターネットは現れた。
田舎者の僕にとっては、それは『都会』との出会いだった。
華やかで、にぎやかで。二十四時間ずっと電気がついていて、いっつもだれか人がいる。
そりゃもう、興奮した。ずっと興奮していた。
僕はろくにテレビゲームすらやったことがなかった。携帯電話を買ってもらったのも、同級生のなかではとても遅いほうだった。
デジタルに関して、まったく免疫がなかった。
そんな僕がパソコンを手にした。SONYのパソコン。親に買ってもらった。当時、十九歳。
AIR-EDGE、というのを利用して、インターネットをつないだ。
田舎者の僕が『都会』と出会った。
インターネットとの出会い、いや、それは出会いというより衝突だった。僕にとって、それはあまりにも刺激的な世界だった。大袈裟じゃなく、血沸き、肉踊った。インターネットをしている間、僕は没頭し、夢中になり、寂しさを忘れた。
インターネットは僕の生活を丸々のみこんだ。
僕はもう、田舎者ではなくなっていた。
「SNSはソーシャルネットワークサービスの略だ」、なんてことを言うようになっていた。「テレビよりもYouTubeのほうが面白い」、なんてことを言うようになっていた。
僕はもう、あの頃の田舎者の高校生じゃないんだ。
友達がいなかった僕だけど、いまではインターネット上で器用に人と会話している。自分からフォローすることもあるし、フォローされることもある。
強くなったし、器用になった。
動画を見たり、動画を自分でアップしたり。人の撮った写真を見たり、自分でもスマートフォンで撮ってみたり。
インターネットを駆使し、人と人とのつながりのなかに、僕はいる。
インターネットのおかげで、寂しいと思うことが本当になくなった。
インターネットと出会って、もう僕は独りじゃなくなったんだ。
なのになんでだろう。寂しくないのに死にたいと思う。なんでだろう。
あわてて僕は探した。でもどれだけ探しても見つからない。
どこにいったんだろう。
あの頃みた、オレンジ色の空と赤とんぼの景色を思い出すと、なんでか涙が止まらなくなる。
もはやどれだけ探しても見つからない。@ryotaism
