ちかごろのコンビニでは、“コンビニコーヒー”なるものが普及し、

それは缶コーヒーではなく、カウンターに置かれたコーヒーメーカーで、その場で抽出し、熱々のできたてを紙コップに注いで飲むことができるのです。

これが意外と低価格で、香りもよく、私はすっかり気に入ってしまいました。

本日もやはり、むしょうにそれが飲みたくなって、寒空のもと、徒歩でコンビニまでむかいました。

さっそくレジで、「ホットコーヒーのLサイズ」を頼み、紙コップを受け取り、

いそいそとコーヒーメーカーの前へと進むと、中年のおばさんが前かがみになってコーヒーを注いでいました。

少しうしろで順番を待っていたのですが、

そのおばさんの手元をみると、紙コップではなく、

家から持参してきたとみられる、“小型の水筒”にコーヒーを入れているではありませんか。

MY水筒にコーヒーを入れているのです。「おいおい、そんなのありかよ」と思いました。

(まぁ、購入したカップサイズの量のみ、一定量しか注ぐことができないわけだから、別にコンビニ側が損をするわけではない。だから、いいっちゃいいんでしょうが。)

はたして、その行いがコンビニ側から認められているのかどうかは知りませんが、虚をつかれた思いでした。

たしかに、保温性は水筒のほうが断然いいもんなぁ。。。

――なんてことを思いながら、いい感じに湯気がのぼるコーヒーを片手に、来た道を戻る。

途中、“かんこんかんこん”と、威勢のいい音が聞こえてきた。

「なんだろう」と辺りを見わたすと、大工さんが家を建てていた。木造一戸建ての、なかなか立派な家である。

その前を通りすぎるとき、子供をのせたママチャリとすれ違った。

母親と子供との会話が、私の耳にとどいた。

「ほら。◯◯ちゃん、匂いがするよ」

「うん。ママ、これ、なんの匂い?」

「これは、木の“けずりこ”の匂いだねぇ」

みたところ、その男の子はまだ4~5歳くらいだから、“けずりこ(削り粉)”というワードは、ちとむずかしすぎるんじゃないか? ぜったいに知らないぜ?

――と思っていると、案の定、その子は、「“けずりこ”ってナニ?」と母親に聞いていました。

「けずったときにでる粉だよ。これはそのときにでる匂い、木の香りだよ」

「ふーん」と、男の子は初めて聞くその言葉を、ママチャリの後ろに座って反芻していた。漂う木の香りを感じながら。

きっとこの男の子は、この経験によって、“けずりこ”という言葉を知り、そして、この匂いによって“けずりこ”という言葉を覚える。

おそらく私も、そうやって色々な言葉を身につけてきた。

たくさんの言葉と、それといっしょに付いている記憶がある。死ぬときは、それらをまとめていっぺんに失ってしまう。@ryotaism